大阪高等裁判所 昭和30年(う)1522号 判決
検事は、原審は本件業務上過失致死被告事件の公訴事実について被害者四名致死の事実を認めながら被告人には監督者としての注意義務を怠つた事実が認め難いとの理由で無罪の言渡をしたけれども、右は事実の誤認であつて被告人は本件については業務上必要な注意を怠り因つて被害者四名を死に致らしめたものであると主張する。
しかして、被告人の司法警察員及び検事に対する各供述調書によると、被告人は古非鉄金属卸売業を営む吉田耕三商店の番頭であつて主人の息子吉田耕三は経験が浅く、また同人の実父で主人である吉田栄太郎は老令の上昭和二十七年十二月中頃から病臥中であつたので、約三十年間同商店に勤務していた被告人が右両名と相談の上、古非鉄金属の買入売却の仕事に従事する外京都市東山区泉涌寺五葉の辻町三十番地の同商店倉庫部構内に居住し同所において古非鉄金属の荷受、選別、出荷等の仕事に従事していた事実、被告人は右の仕事に従事していた見崎知義外五名の従業員を指揮監督する地位にいた事実、被告人が昭和二十八年一月末頃旭電線株式会社に上古銅五噸を売却し同年二月三日までに同会社の指定する村中金属工業株式会社へこれを引き渡したが同月五日旭電線株式会社から右五噸中一噸半は品質不良であるとして代金の減額若しくは返品の請求があつたので見崎知義に調査をさせた結果その大部分は上古銅として他へ売却することが可能であつたのでその返品を受けることを承諾し馬車輓沢本栄八に運搬を依頼し同月九日午後四時半頃村中金属工業株式会社から二十八叺入上古銅一噸半を右倉庫に引き取り同倉庫部主任見崎知義に選別を命じた事実、翌十日午前九時頃見崎知義外三名の従業員が同倉庫部内東倉庫と西倉庫との間にあるコンクリート敷の上でその選別作業を始めた事実、被告人も同日午前九時半頃から選別作業を手伝い一叺毎にその在中の古銅を全部取り出し右五名がこれを囲んで選別を続けていたところ午前十一時過一叺の上部から取り出された銅板屑、銅パイプ屑の上へ叺の底部から総量約十瓩に相当する多量の銅製雷管(長さ三糎余、直経約五粍か六粍の円筒型)が取り出されたが、被告人はその雷管中に火薬らしい物が填つているものを現認したので危険であると直感し先に発見した信管と共に府商工部へ届け出てその処理につき指示を受けるため見崎知義外三名にこれは危いかもわからんから注意して選別し別の叺にまとめて西の倉庫に入れてくれと命じ、同人等と共に雷管以外の銅屑を取り出していたところ間もなく同業者中谷寛治が訪ねて来て被告人に話しかけたので被告人は約五分後同人を同所から約五米離れた事務室へ案内した直後右多量の雷管が一時に爆発した事実が認められ、司法警察員新常造作成の検証調書、原審第二回公判における証人新常造の供述、及び鑑定人黒岩武次の鑑定書と原審第六回公判における同鑑定人の供述によると、右従業中の従業員見崎知義、森川正雄、上田太造、藤田喜代一の四名が右爆発事故によつて死亡するに至つた事実が認められるのである。
右認定の通り被告人は従業員の古非鉄金属選別を指揮監督する業務に従事していた者である。しかも従業員を指揮して従業員と共に古非鉄金属の選別中多量の雷管を発見し右雷管中に火薬らしい物が填つているものを現認し自ら危険であると直感しているのである。かかる場合にはこれが監督の地位にある者は直ちにその作業を一応中止せしめて最寄の警察署又は京都府商工部に届け出でこれが処理について専門家の指示を求めた上、これに従つて危険の発生しないように万全の措置を講じて選別作業を再開する業務上の注意義務があると解すべきである。火薬類の取扱については、いうまでもなく法規の厳重な取締があるのであるから、通常の状態にある火薬類については、或る程度の安定度が保障せられているものといえようが、本件の雷管のように異常な状態(海水中に浸漬されていたものであつて、火薬解撤処理を経ていないもの)にあるものについては、その安定度は専門家でなければ容易に判定できないものである。もし被告人にして、京都府商工部長が古非鉄取扱業者に注意を喚起しているように、本件雷管を発見した場合に直ちに最寄警察署又は府商工部に届け出で、これが処理について指示を求めたならば、当審鑑定人若園吉一も述べているように、適当な専門家の監督の下に、できるだけ慎重な方法例えば選別すべき物を十分に水に侵した上で、選別するような指示が与えられたと思われる。しかるに被告人は右危険を直感しながら従業員に対し単にこれは危いかもわからんから注意して選別せよとの一応の言語上の注意を与えただけで作業を継続せしめたのであつて、作業の指揮者としての十分な注意義務を尽したものとはいえない。本件爆発事故は被告人の右過失によるものと認めざるをえない。もちろん、本件事故当時作業に従事していた従業員は死亡してしまつているので、本件爆発の直接の原因が、従業員が選別作業に手鉤を使用したための衝激にあるのか、従業員が雷管を踏みつけたための摩擦にあるのか、それとも従業員が火気を落したことがあつたためなのか等を、確定することは不可能なことである。しかし、事故当時作業の施行以外の外部的原因によつて、本件爆発が不可抗力的に惹起せられたものと認むべき特殊な事情の全く認められない本件事案においては、被告人が適当な指示を求めるために作業を一応中止せしめなかつた過失と本件爆発事故との間に、因果関係があるものといわざるをえない。従つて被告人は業務上過失致死の責任を免れるわけにいかないので、被告人が業務上必要な注意義務を怠つた事実なしと認めた原審無罪の判決は失当であつて破棄を免れないが、当審で直ちに判決できるものと認め刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書の規定に従い次の通り判決する。
一、罪となるべき事実
被告人は古非鉄金属卸売業吉田耕三商店の番頭で古非鉄金属の入荷選別等の作業責任者として従業員を指揮監督する地位にあつた者であるが、昭和二十八年二月十日午前九時三十分頃から京都市東山区泉涌寺五葉の辻町三十番地同商店倉庫において従業員見崎知義、森川正雄、上田太造、藤田喜代一の四名と共に古非鉄金属の選別作業に従事中同日午前十一時頃叺から取り出した古非鉄金属中に多量の正当な状態でない雷管が混入していることを発見したので、被告人としてはその雷管は爆発する危険があるかも知れないのであるから即時選別作業を一応中止させて最寄の警察署又は京都府商工部に届出して適当な指示を求め、これに従つて危険の発生しないように万全の措置を講じた上選別作業を再開せしめる業務上の注意義務があるにかかわらず、これを怠り単に一片の言語上の注意を与えただけで漫然選別作業を継続させたため、右雷管を一時に爆発せしめる事故を惹起せしめ右見崎知義外三名を死に至らしめたものである。
(裁判長判事 斎藤朔郎 判事 網田覚一 判事 小泉敏次)